夢浮遊





「じゃあ優希、明日も学校でね」
 別れ際に晴香は決まってこの質問を私に投げ掛ける。
「うん、明日ね」
 いつもと同じやり取り。
 この受け答えは心地よい。
 晴香が私に甘えてくれていると思うと自然と頬の筋肉が緩くなる。
 お互い特定の人とつるむ事もなく、クラスから少し浮いている存在だった。
 入学当初から思った言葉を素直に発していた晴香は周囲からすぐに浮く事になった。
 私自身はただ単に一人が好きだった。
 特別盛んに交流はしないもののクラスメートから一定の距離を保ちながら今まで過ごしてきた。
 晴香の後ろ姿が少し夜のカーテンのかかる空と同化するのを見守った後、私は家に向かって歩き出した。
 飾る事も他にこびる事もせず己の思うままに行動する晴香は私の憧れでもあった。
 そのような存在に憧れつつもやはりどこか淋しさが残り、誰かと広く浅く、浮かずとも馴染まずな状態だった。
 そんな中、唯一気の置けるのが晴香だった。
 はっきりと物を言われるのを好む私に晴香の空気は大変合った。

「ねぇ、先生に仕事させてあげなよ」
 入学時、晴香がクラスで1番最初に放った言葉だ。
 新しい生活が始まるということでテンションの上がりまるで動物園のような騒ぎになっていたクラスメイトを一瞬で黙らせた。
 先生は先生でクラスをまとめることも出来ず少し頼りなかったのもあるが、この一言は大変効果を持ち尚且つ晴  香に対する強烈な印象を残した。
 私はその一部始終を体験し、そして一瞬で彼女の虜になった。

 その日から晴香に近づく、いや親しくなる事に奮闘した。
 そして常々他の人が晴香に近付く事がありませんように。
 ずっと、私だけの晴香でありますように。
 そう祈る事が今の私には精いっぱいだった。
 後ろを振り返ると、もう晴香の姿は無かった。
 いつもこの瞬間、手の届かないものの存在を改めて実感する。
 晴香と居る時間は取ろうとして手をのばすとするりと実態のないような物を相手にしているような感覚に陥る。
 別れ際の言葉がこれは現実なのだと確認する証のような気がする。
 毎日、毎日この同じ繰り返しが晴香と繋がっているという思いを強くする。
 そしてまたまるで夢の中を漂うような毎日を送るのだ。









『夢浮遊 』2008.9.4
短い上にまとまっておらず…すみません。

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